2025年までにNTT固定電話網(PSTN)はIP網へ移行予定。1. 企業への影響とその対応
皆さんご存知の通り、2024年1月から2025年1月にかけてNTT東西は固定電話網(PSTN)をIP網へ移行する予定です。そのため今回はこのPSTNのIP網への移行とは何なのか?コールセンターに限らず、電話回線を多く扱う企業へのメリットデメリットについてまとめていきたいと思います。
目次
固定電話網(PSTN)のIP化とは何か?
こちらの総務省のサイトが参考になります。以下の図は同サイトより引用です。
現在: 左図のようにPSTN網とIP網が併存中。
移行後: 右図のようにPSTN網は無くなります。しかしながらメタル回線は維持され、変換装置を経てIPと接続する「メタルIP電話」を当分の間提供するそうです。
そのため、移行後、これまでのユーザーはこの「メタルIP電話」サービスを使用するか、通常のIP電話サービスに乗り換えるかのどちらかになります。
※なお、現在の方針としては「固定電話の利用継続には、切替にともなう手続き等は不要」とのことです。一般の個人ユーザーにとっては「知らない間にメタルIP電話に切り替わっていた」ぐらいの出来事になるかもしれません。
ここからは大口回線利用者の目線でメリット/デメリットを考えていきます。
固定電話網(PSTN)のIP化のメリットは?
電話代が安くなる(かも)。
「IP網を利用するため距離に依存しない低廉な電話サービスが利用可能」と言われています。実際に移行後に提供する「メタルIP電話」の料金設定も現在の加入電話料金より安く設定される見込みです。しかしながら、これは個人ユーザー向けととらえたほうがよさそうです。ISDN回線を使用している企業にとっては、接続に必要な機器(アダプターなど)のレンタル代は年々増大しています。
(総務省のサイトより引用)
固定電話網(PSTN)のIP化のデメリットは?
PSTNのIP網への移行は時代の流れであり、コスト面および通信インフラの品質の面から見てもしょうがないことですが、企業にとっては一時的にデメリットが生じます。
ISDNサービス「INSネット(デジタル通信モード)」が終了する。
PSTNのIP網への移行に先立ち、2024年に「INSネット(デジタル通信モード)」サービスが終了します。コールセンター運営企業に限らず、ビジネスで本回線サービスを利用している場合影響があります。影響を受ける通信としてよくいわれているものにEDIがあります。ISDNはその安定性からEDI用回線として利用されていました。また、EDI自体も広く利用されているため、今回、「INSネット(デジタル通信モード)」サービスが終了するにあたり、多くの企業において何らかの対応が求められています。
この対応策としては主に以下の3点がありますが、今後のトレンドを考えるとインターネットEDIへの移行が現実的なソリューションとなります。
1. IP-VPNの利用
2. メタルIP電話でのデータ通信(NTTが提案しているが詳細未定)
3.インターネットEDI
その他、影響を受ける通信として銀行のATMや一斉放送もこのISDN(デジタル通信モード)を使用しているといわれています。
企業の対応策: IP化
IP電話サービスへの乗り換えを検討したほうが良い。
これまでISDNを主として固定電話網PSTNを利用している企業は今後、IP電話への移行を検討する必要があります。
理由1. ISDNは料金が上がる。
キャリアは既に大口利用者(企業)に対して「ISDNを使い続けると、年々利用料金が上がっていく」とIP電話への移行を促す啓蒙活動をしています。また、オフィスPBX (IP PBX)などからISDN回線につなぐためのゲートウェイのレンタル代も決して安くはありません。
理由2. PSTN廃止後、提供される「メタルIP電話」はつなぎのサービス。
総務省WebSiteでも「メタルIP電話を当分の間提供する」と書かれています。これは混乱防止のつなぎサービスと考えることが妥当です。IP電話への移行が進むといずれ廃止されるでしょう。また、この「メタルIP電話」の具体的な実現策は情報としてまだ提供されてません。しかしながら変換装置経由でIP網と接続するため、ある程度の品質劣化は覚悟する必要があります(音声遅延や同時発信性能の低下)。
理由3. IP電話化する良いタイミング。
2025年のPSTN廃止とそれに先立つ2024年のISDN(デジタル通信モード)廃止によって急に通話用の回線が切断されるわけではないので恐れることはありません。むしろ時代遅れのISDNと決別するよいモチベーションとして利用しましょう。ISDNを使い続けることは今後も高い維持運用費用を払い続けることになります。ISDNはいずれ無くなります。ベストの方法は焦らず自社のタイミング(システムの更改のタイミングなど)でIP電話サービスに乗り換えることです。
どうやってIP電話化する?
方法は大きく分けて以下の通り2つあります。
1. キャリアのIP網に直収
企業側の主装置(主にPBXまたはIP-PBX)がキャリア側のIP直収に対応している必要があります。もし現在、自社の主装置がキャリアのIP直収に対応していない場合、この方法を選択するチャンスは次回の主装置更改タイミングといえます。基本的にはキャリア公認のIP直収に対応しているIP-PBXへと更改し、企業内だけではなく回線もIP電話化します。
2.ゲートウェイを介してキャリアのIP網と接続
自社内に既にIP-PBXがあるが、キャリアのIP直収に対応していない場合があります。既に社内はIP電話化されているが、キャリアのIP網へはそのままでは接続できない、実にもったいないケースです。この場合のソリューションとしてキャリアとの接続用VoIPゲートウェイが利用できます。
ここでいうVoIPゲートウェイとはデジタル(IP)<->アナログ(PSTN)を変換するゲートウェイとは異なります。社内のIP(LAN)とキャリアのIP網を接続するためのゲートウェイです。Session Border Controller (SBC) や Internet Telephony Service Provider(ITSP) Gateway と呼ばれることがあります。(混乱を避けるため以降は「ITSPゲートウェイ」と呼びます)。ITSPゲートウェイはキャリアがレンタルしている場合もありますが、サードパーティよりマルチキャリア回線に対応したものが提供されています。(Nextgenや日本ブレケケなど。)
回線のIP電話化は効率よく、低リスク、低コストで実施したいもの。次回は各企業が実施しているIP電話移行パターンを紹介します。>>